快楽と不安の二項対立


マリア様

 


快楽と不安の二項対立

自分はがんだと信じた人が、誤謬だったのに本当に死んでしまった。強すぎる恐怖は人を殺しさえする。『快楽を追う回路と危険を避ける回路のせめぎ合い』という原理が、人間の脳を理解するカギとなる。


信じる力、というとなんだか胡散臭い気もするが、こんな実験もある。

素人とプロのバスケット選手に順番に実験は行われた。

まずは、素人の方に、フリースローを打ってもらう。この時に、周りにはオーディエンスを配置し、フリースローが入ったらすごく盛り上がってもらって、外れたとしても「次はいける!」とか「今のショットもよかったぞ!」などと盛り上げる。

そして、次は目隠して打ってもらう。この時に、たとえ外れていたとしてもオーディエンスはシュートが入ったかのように盛り上げる。こうすると、素人の方はだんだん入るようになってくるという。

次はプロの選手。フリースローを普通に打ってもらう。当然、バッチリ入る。次に目隠しして打ってもらう。ここで、さっきと違うのは、オーディエンスには入っても外れても、外れた反応をしてもらう。

すると、さっきまで入っていたフリースローが、入らなくなってくるという。


人間はこうだと思い込んでしまうと、その人の中では、その思い込みが定着してしまうことがある。そんな小さな思い込み、勘違い、疑いなどから人とすれ違ったり噛み合わなくなってしまうことがある。最初は小さかったほつれが、また別のほつれを生み、次第に大きなほつれとなってしまう。認知の歪み一つででうつ病になったり、あるいは認知を正すことでうつが治ったりもする。脳の中の神経回路や、脳の活動、そして、人の心の動きはとても複雑にできている。目に見えないものだからこそ、正すのも厄介なのが認知の歪みや、感情のもつれではないだろうか。だけど、認知を正していくことはできる。今は、認知行動療法(ACT)などもあり、これは科学的にも効果のある治療法だという。しかも、目に見えないと言ったけれど、脳の動きや反応はfMRIを使えば見ることができる。fMRIというのは、脳をスキャンして(レントゲン写真みたいに)脳をめぐる血流を可視化するといったもの。

これを使えば、人がなにかポジティブなことを考えたり楽しい画像を見つめているとき、脳のどの部分が活性化しているのかが一目でわかる。

だけど、そもそも私たちは心の奥で起きているこうした動きを自分では認識できていないのだ。いっぽう、脳内を映像化する技術を駆使しても、神経の活動から生じる記憶や想像や解釈の微細な揺れを、十分に解明することはできない。


こんな場面を想像してほしい。

あなたが道を歩いている時、久しく会えていなかった知り合いがこちらにやってくるのが見えた。けれど相手は、挨拶しようとしていたあなたの横をこちらを見ることもなく通り過ぎていった。

あなたは相手のことを失礼なやつだと思うかもしれない。自分は好かれていないのではないか、話をしたくなくて巧妙に無視されたのではないかと思ってしまうかもしれない。

あるいはそうではなく、相手は忙しくてなにかに気を取られていたのかもしれないし、単にあなたに気づいていなかっただけかもしれない。こちらの名前を思い出せずに、ばつの悪い思いをするのが嫌だったのかもしれない。

「状況をどう解釈するか」が、「どう感じるか」に大きく影響するのだ。同じ状況でも、相手はなにかに気を取られていたんだろうとポジティブに解釈すれば、それは楽観的な心の傾向を助長するが、「自分は嫌われている」とネガティブに解釈すれば、ネガティブな思考のスパイラルが起こり、悲観的な心の傾向にさらに拍車がかかる。


「ものごとにごとに良いも悪いもない。考え方次第で良くも悪くもなる」

_ウィリアム・シェイクスピア



美しいものを見ること。それを作り出すこと。それを愛すること

は、きっと自分の中で正しい判断をする際の指標になってくれるでしょう。

私はそう信じています。




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